こんにちは、スライベックスの鶴野です。
今回は、スライベックスの支援事例として、小売業のデジタル化プロセスをご紹介いたします。
事例企業は、オーガニックの健康食品を販売する株式会社グレースです。
グレースは私の両親が始めた会社で、まもなく創業40年を迎えます。地元・長崎でからだに安全な食べものと生活雑貨を取り扱う、無添加酵素とオーガニックの専門店GRACE SELECTを3店舗経営し、お客様の健康をサポートしてきました。
大学卒業後に東京で就職した私は、いつしか両親の会社を引き継ぐことを決意し、2019年に長崎へ戻りました。そして、デジタル化を軸とした事業改革を進めています。
これまでに取り組んだデジタル化の施策は、次の通りです。
- 顧客情報データベースの構築(顧客リストのデータ化、販売履歴の紐付けなど)
- 自社ECショップの立ち上げ
- モールへの新規出店
- LINEでセグメント配信
デジタル化に伴い、グレースは順調に売上が伸びています。これは、販売チャネルが増えただけではなく、デジタル化で業務を効率化し、お客様1人ひとりにグレースの強みである丁寧な接客ができるようになったためです。
皆さまの中にも、実店舗を運営しながら、ECを立ち上げたい、顧客データを紙からデジタルで管理したいと考えている方は多いのではないでしょうか。
ぜひ、グレースの事例が皆さまのビジネスの参考になれば幸いです。
[小売業のDX・ステップ1]売上分析、顧客分析から自社の強みを知る
まずは、会社や事業、商品、お客様のことを知るところから始めます。戦略立案や課題の抽出、施策を考えるためには、自社の強みや弱み、事業の現在の状況を可視化し、関係者間で認識のすり合わせが大切です。 グレースでは、次のような方法で事業を可視化していきました。
会社の歴史をふりかえる
年表を作り、創業から現在まで、会社で起きた様々なできごと(例:新規出店をした、新商品を販売した、事業をクローズした)を書いていきます。中途採用の開始や社員の人数の変遷、本社移転など、コーポレートの情報も書きます。 グレースでは、父や母と一緒にふりかえりを行い、「○○年に姉が生まれた」といった家族のこともまとめました。「このとき何があったか?」が思い出しやすくなりました。
売上構成をデジタルデータ化し、可視化する
これまでの帳簿を参考に、売れ筋の商品やお客様ごとの購入金額、販売時期の傾向など、分かる範囲で売上の構成を可視化します。売上構成は「目的達成のためにどんな施策を行うのか?」を考えるとき、とても大切です。手間はかかりますが、手元にアナログデータしかない場合は、デジタルデータ化しましょう。
グレースでは、売上の5割がお客様全体の1割の方々による購入であることがわかりました。肌感覚では「常連のお客様にお世話になっている」ことは理解しており、納得の結果が得られました。いっぽうで、グレースでのお買い物が数回で止まってしまうお客様も少なくないことがわかりました。これは、反省点であるとともに、大きな気づきにもなりました。
顧客分析で自社の強み・弱みを理解する
顧客分析では、「自社のお客様は、どのような方たちか?」を掘り下げていきます。性別、年齢、居住エリアなどのデモグラフィックデータのほか、「どういった点で自社のサービスや商品を支持してくれているか?」を見ることがポイントです。すると、自社の強み/弱みが見えてきます。アンケートを行う、関係性が深いお客様に直接ヒアリングするなどの方法があります。
グレースではとくに、「お得意のお客様はグレースのどのような点が気に入っていらっしゃるか?」を分析しました。見えてきたのは、お客様1人ひとりの困りごとを丁寧にうかがい、向き合う接客の姿勢です。私たちは、この接客の源を「親身力」と名付け、グレースの強みとして注力していくことにしました。
中には「自分の会社だし、長い付き合いのお客さんもたくさんいるから、よく知ってるよ」という方もいらっしゃると思います。そんな方にこそ、ぜひ「会社やお客様のことを知る」に取り組んでいただきたいです。新しい発見や、気付いていなかった自社の強みが見つかります。
[小売業のDX・ステップ2]目的を決め、DX・デジタル化を踏まえた事業戦略を立てる
続いては、これまで集めた情報やデータ、分析をもとに、目的を決めて戦略を立てます。
分析から、グレースの強みは店舗における親身力の高い接客であることがわかりました。この親身力を持って、より多くの方に商品をご提供し、健康をご支援するとともに、事業の拡大を目指していく。これが、大きな目的です。
しかし、現時点では少人数で仕事をしているため、リソースは限られています。そこで、業務のデジタル化で仕事のムダをなくし、1人ひとりの生産性を高める戦略を立案しました。
まとめると、次の通りです。
- 顧客情報が紙で管理され、継続的な提案をする上で情報のアップデートや検索が難しい。
- 業務に必要な情報が属人的な管理になっており、共有されにくい。
- LINEや電話で注文を受けるとき、販売データの作成や入金対応が煩雑で作業負荷が高い。
これらの課題を、デジタルやツールを使って解決していきます。
[小売業のDX・ステップ3]kintoneで顧客情報のデータベースを作る
小売業で1人の従業員の生産性を上げるには、より多くのお客様と接客し、適切なご提案ができる環境作りが必要です。その基盤となるのが、顧客情報のデータベースです。
グレースでも、サイボウズのkintone(キントーン)で顧客情報のデータベースを作りました。
まず、これまで紙で管理してきたお客様データをkintoneに入力します。 それ以降の新規のお客様は、店頭で会員登録フォームに記入いただき、後ほど社内でkintoneに入力するフローにしています。LINEやWebフォームからの入力も進めており、kintoneと連携して、情報入力の手間を省いています。 実店舗でのお買い物実績がないECのみのお客様は、EC購入時に会員登録したデータがkintoneの顧客情報データベースに集約されます。 実店舗での接客時は、お客様に会員証の有無をうかがいます。会員証にあるバーコードを読み込むと、顧客情報データベースから情報が呼び出され、パソコンやスマホで確認ができます。電話番号の下4桁でデータベースを検索できるので、会員証を忘れたお客様の確認もカンタンです。 お客様情報には、過去の購入履歴も紐付けていますので、担当営業もどのようなお客様かがわかります。「先日購入された商品はいかがでしたか?」のようなお声がけもスムーズです。 顧客情報データベースがあると、お客様情報の更新や追加も楽になります。たとえば既存のお客様が新しい商品に関心を持っていたり、「こんな困りごとがある」などのお話を聞いたときは、kintoneでお客様情報をアップデートしていきます。すると、次の接客のときに適切なご提案ができるようになるのです。
[小売業のDX・ステップ4]Shopifyで自社ウェブショップの立ち上げ、モールへの出店
次は、ECの立ち上げです。
グレースは、顧客情報データベースの設計・構築と並行して、Shopifyを使った自社のウェブショップの立ち上げと楽天市場への出店を進めました。
「補助金が出るのでECを始めたい」と思う方は多いと思うのですが、ECを始めるにあたっても目的が必要です。なぜならECも実店舗と同様、オープンしただけでは商品が売れないためです。
また、実店舗の接客とは別で、受発注対応や発送作業が増えます。「ECを始めたが、売上は横ばい。手間だけ増えて、リソースが足りなくなってしまった…」ということにもなりかねません。ですから、ECも「なぜやるか?」の目的設定が大切なのです。
自社ECは、常連のお客様の利便性向上のため
グレースでは、自社ECの目的を「店舗で買われていたお客様の利便性向上」にしました。これまで、来店して購入されたり、電話注文をされていたお客様が、好きなときに買える環境作りを目指したのです。ウェブショップは基本のデザインテンプレートを使い、シンプルな運営を心がけています。
またShopifyの特長は、店舗在庫とEC在庫の一元管理ができるShopify POSが使えることです。さらにShopify POSを使えば、ECで会員登録したお客様が実店舗で購入されたときも、簡単に顧客データと販売データを紐付けることができます。
楽天市場(モール出店)は、新規のお客様を増やすため
楽天市場は、「新規のお客様を増やすこと」を目的としました。
やはり楽天市場の認知は高いですし、利用者も多いので、実店舗のグレースをご存じのないお客様もお買い物ができます。楽天市場で購入されたお客様のデータは、現在手入力でkintoneに登録していますが、近いうちに自動連携する予定です。
[小売業のDX]顧客情報データベースを使ったアプローチで、多様な購入機会の創出を実現
ここまで、グレースが実行し、現在も改善を繰り返しているDX・デジタル化の施策をご紹介してきました。 では、どのような成果が現れているのかをお話します。
①お客様1人ひとりを理解した、適切な接客ができるように
実店舗の接客では、顧客情報データベースを見て、前に購入された商品やお客様の困りごとを把握し、お客様により適切なご提案ができるようになりました。これには、店舗接客を大事にしてきた父も、とても喜んでいます。実は父から「デジタル化は必要なのか?」と言われていたのですが、実際に「便利になった」と実体験したことで、デジタル化の良さを分かってくれたようです。
②お客様の悩みごとにセグメントし、LINEのメッセージを送信
お客様情報の登録(会員登録)時に、体のお困りごとに関するアンケートにお答えいただいています。その回答は、kintone上で顧客データごとにタグ付けし、お客様の悩みの傾向別にセグメントしたLINEコミュニケーションを行っています(現在の対象は、会員登録をし、LINEフレンドになっているお客様に限ります)。あわせて、良く購入されている商品名でのタグ付けも行い、セグメントして該当商品のキャンペーン情報をLINE配信しています。
③販売チャネルが増えて、お客様が全国に広がった
自社ウェブショップの存在は、ご来店時やLINEでご案内をしています。利用される方も増え、手応えを感じています。とくにコロナ渦で外出を控えているリピーターのお客様には、ウェブショップが大変喜ばれました。楽天市場店は、全国からご注文をいただくようになり、新しいお客様との接点になっています。
④営業スタッフ別の売上をセールスの評価指標に
顧客情報データベースの構築で、営業スタッフごとに売上や粗利が可視化されるようになりました。担当者の評価指標や事業の貢献度の指標となり、定量的な人事評価に使っています。やや別軸の活用ですが、スタッフ自身も自分のがんばりが定量的に見えますし、モチベーションの向上につながっているように感じます(これまでは、肌感覚で評価やボーナスを設定していたそうです)。
お客様の情報をデータベース化し、情報を扱いやすくすると、いろいろな施策の実行につながることがおわかりいただけたかと思います。
今後の取り組みとして、楽天だけでなく、Yahoo!ショッピングやPayPayモール、Amazonへの出店も検討しています。さらに、各モールから自社ウェブサイトへの導線作りも考えています。
お客様情報が増えていけば、さらにお客様にあったご提案ができるようになります。また、現在は手動で行っているメッセージ送信やクーポン発行も、自動化していく予定です。
一方で、お客様の中には紙のダイレクトメールがお好きな方もいらっしゃいます。コミュニケーションをすべてデジタル化するのではなく、お客様が好きな方法で関係性をつくることが大切です。ダイレクトメールも、顧客情報データベースを活用し、お客様のご利用傾向別にセグメントして送付したり、トラッキングナンバーを付けてキャンペーン効果を測るなどの施策を考えています。
[小売業DX]売上アップ・ビジネスの拡大には、自社に合ったデジタル化・システム開発が必要
グレースが業務のデジタル化を始めて、2年が経とうとしています。
コロナ渦でありながら、売上は前年比15%〜30%と伸び続けており、1年以上購入がないお客様の割合も下がってきました。
着実にデジタル化の成果は表れています。やはり、顧客情報のデータベースを軸に、お客様1人ひとりにしっかりアプローチやフォローができているからです。デジタル化で業務のムダが減ったぶん、店舗接客やLINE、お電話でもお客様のお困りごとやご希望をうかがう余裕が生まれ、親身力の高い適切なご提案につながっています。
デジタル化が持つイメージに、「あたたかみがない」「仕事が減り役割がなくなってしまうのでは?」などがあります。しかしグレースでは、常連のお客様の接客に集中できるようになりましたし、やるべき施策も次から次に生まれています。人が行う仕事をより大切にできるのが、DXなのです。
小売業のDX・デジタル化は、コンサルからシステム開発まで一気通貫の支援ができるスライベックスにご相談ください
以上が、グレースのデジタル化事例です。 小売業のDX・デジタル化の、具体的なイメージをつかんでいただけましたら幸いです。 今回ご紹介したプロセスや施策は、あくまでも事例の1つで、お客様の状況に応じてご支援内容は変わります。 たとえば、すでに課題が明確で、「○○の業務をデジタル化したい」というフェーズであれば、すぐにシステム開発から入る場合もあります。また、「何から取り組むべきか?」のご相談もうかがえます。 スライベックスの強みは、次の通りです。
- お客様ごとのお悩みや課題に寄り添う「親身力」で、オーダーメイドのわかりやすいコンサルティング
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