DX繁盛ストーリー

THRIVING BUSINESS
DXコンサルティングの始まり

オーガニック食品小売業のDX

事業継承からスライベックス創業へ

株式会社グレース

株式会社グレース(以下、グレース)は1993年に長崎県で創業され、地域社会の健康と環境を考えたオーガニック食品などを販売。店舗は長崎県内に2つあり、従業員は4名。小規模ですが、顧客との強い信頼関係に支えられている地域密着型の企業。

始まりは事業継承

株式会社スライベックス 代表取締役の鶴野です。スライベックスを創業するきっかけとなった、父から事業継承した長崎のオーガニック食品を扱う株式会社グレースのDXについて書かせて頂きたいと思います。

私は新卒でホンダに入社し、東京で機械設計のエンジニアとしてモーターサイクルの新機種開発に携わった後、コンサルティングファームに転職してコンサルタントをしていました。3人姉弟の末っ子、男一人で長男なので、東京で働きながらも長崎で店舗を営む両親のことはずっと気になっていました。両親が高齢になってきたこともあり、2018年に事業継承することを決心し長崎に帰省して、両親が経営するグレースに入社しました。

酵素ドリンクをはじめとするオーガニック商材には以前からポテンシャルを感じていたので、入社前に事業継承の成功事例を勉強し、入社するからには「もっと売り上げを伸ばして成功させたい!」と強く思っていました。父も細かく指示するようなタイプではないので、入社してからは店頭販売を手伝いつつ、ボトルパッケージやホームページをリニューアルし、店舗以外での販売展開を見据え、コンサルタント時代の経験とITの知識を活かして顧客管理やデータベースの構築などについて検討していました。

ところが、入社して数ヶ月で苦しい立場に立たされることになります。

売上が足りない・・・、という状況に

グレースには私の妻も一緒に入社して手伝ってくれていましたが、そもそも私たち2人は人手不足の状況を克服するために入社したわけではありません。会社はそれまでの売上に応じて私たち抜きの人員で充分に運営できていました。事業継承が目的だとは言え、新たに店に加わった私たちは結果的に余剰人員だったのです。そして、その余剰人員である私たちの人件費が店舗の経営に重くのしかかっていたのでした。

株式会社スライベックス 代表取締役 鶴野嵩敬

とにかくすぐに売上を伸ばさないと!という展開になり、父は私に自分が得意とする飛び込み営業や卸先の新規開拓を迫ってきました。致し方なく、私もテレアポや飛び込み営業で整骨院や美容院などを回ってみるのですが、経験もないのでまったく売れません。しかし、父も売上を伸ばすため必死なので、「もっとやれるだろう!」と言い続けます。これでは埒が明かないし、事態は一向に好転しないように思いました。今必要とされることは他にもっとあると確信した私は、営業に行ったふりをして車中で自社の分析を始め、どうやったら売り上げが上がるのかを考えました。

会社の課題をITで解決したい

コンサルタントの視点で自社を捉えなおした結果、私が考えた課題は3つありました。1.自社の強みが定義できていない、2.非効率なノンコア業務が多く、マーケティングなどの大切な業務ができていない、3.事業を発展させるためのデータ基盤が整っていない。まずはこれらの課題をITで解決することが重要だと考えました。
IT化の方針を決めるため、デジタル化の目的と具体案を可視化する「DXマップ」というフレームワークに沿って、自社の分析を始めました。

DXマップ

DXマップのベースとなるのは、「価値の源泉(自社の強み)」。①は会計ソフトの活用などによる既存ビジネスの「コスト削減」。②はマーケティングなどによる「売上向上」。③ECサイトやサブスクモデルによる「新規ビジネス」の検討になります。

社歴を振り返り、強みを発見

まず価値の源泉となる「自社の強み」を発見するため、事業を始めた理由、店を移転した理由、いつ・どんな出来事があったかなどの社歴を振り返りました。次に顧客分析をしたいと思ったところ、アナログな会社が唯一使っていた販売管理ソフトの中に電話注文したお客さまの情報が一部だけ残されていました。これを詳しく見ていくと主力商品である酵素ドリンクを電話でリピート注文して下さっている方々であり、これはそのままロイヤルカスタマーのリストになっていました。このロイヤルカスタマーに提供しているものがグレースの「価値」であり、「自社の強み」だと考えました。

リストアップされた各々のお客さまについて両親に尋ねてみると、どんな悩みを持っていたか、どうアドバイスしたかなど事細かに詳しく話してくれました。2人の話を聞きながら思ったのは、うちの強みは「商品」ではない、ということ。両親が一人ひとりのお客さまの悩みに真摯に向き合い、商品を通してお客さまの課題を親身になって解決しようとしてきた姿勢、それこそが強みなのだと確信しました。そしてこれを「親身力(しんみりょく)」と言語化し、自社の強みとしました。

この「親身力」をデジタルの力で強化し、オンライン販売などへ展開していくことが会社の次のステップであり、それが事業を継承する自分のミッションだと考えるようになりました。

株式会社グレース 代表取締役 鶴野暁美氏

ノンコア業務を洗い出して縮小・撤廃

続いて、お客さまに価値を提供しない非効率な業務を縮小・撤廃していきました。書類の転記などのムダな作業が多く、新しい施策を打つ余裕がなかったためです。全ての業務を洗い出して業務課題をマップにまとめ、両親と従業員に見せました。ムダな業務や業務フローにおける課題を共有することで、効率の悪い業務を改善しようという空気感を作っていきました。みなが面倒くさいと思っていた経理や配送の業務、書類による在庫管理などの無駄な作業をなくしていきました。これが2つめの課題であった「既存ビジネスのコスト削減」にあたります。空いた時間でマーケティング活動やお客さまのフォローなどをすることで親身力を発揮すれば売上も給料も上がると伝え、親身力への意識付けをしていきました。

事業を発展させるためのKPIの策定

次に取り組んだのが「データ基盤の構築」です。これまではデータの収集や分析を行っていなかったので、数値目標も決められず、マーケティング施策の成果も不明でした。そこで、売上・新規顧客の数・顧客単価・リピート率などのデータを集めて分析し、事業を発展させるためのKPIを策定しました。強みである親身力に関わる「お客様との会話履歴」などの定性的データも収集したいと考え、現場スタッフと貯めるべき情報の種類を話し合いました。顧客情報が紙ベースの顧客台帳からデジタル化され、購入頻度や履歴、好みなどがリアルタイムで把握できるようになったことで、パーソナライズされた接客やマーケティング活動を可能にしました。これがDXマップ②の「既存ビジネスの売上向上」にあたります。

強みを発揮できるシステムを構築

3つの課題の解決策として「kintoneをベースにしたデジタル化」を行いました。顧客・商品・取引先の情報、販売や請求などの全てのバックオフィス業務の一括管理が狙いです。これをベースとして、顧客応対・配送タスクの自動化・アフターフォローメニューの自動作成・ステータスの管理などを可能にしました。数値が見える化されたことで様々なKPIも右肩上がりになっていきました。最大の要因は、スタッフが何に注力すべきかわかるように可視化したこと。何をすれば会社の利益に貢献できて、給与に反映されるかを把握できるようになったため、自発的に次のアクションを考えるようになったからです。

ECモールに出店し、オンライン販売を強化

その頃、ボトルデザインも刷新が終わり、売りたい商品はあったのでオンライン販売を強化したいと思っていました。そんな時期にコロナ禍となり、ECモールへの1年分の出店料と販促用クーポンの30%を県が補助してくれるという話を聞いて、すぐに出店を決めます。すると1ケ月で200万円以上を売り上げ、初年度でデイリーランキングの1位を獲得しました。

ECモールの購入サイクルやアンケート結果といった顧客情報や販売データもkintoneで全て集約し、「お客さまの見える化」を図ったことで効果的なマーケティング施策と販売のPDCAサイクルを回せました。その結果、次年度は2倍以上の売上を記録し、今では年間1500万円以上の売上をキープできています。オンラインには全く興味のなかった父でしたが、自ら動かなくても商品が売れるネットの力の凄さに驚いていました。今ではネット販売が全体売上の3分の1にまでなっているため、経営をかなり安定させることができました。

デジタル化の相談相手からスライベックス創業へ

販売代理店の人と打ち合わせをしているとIT・デジタル化のことで悩まれている方が多く、うちの店のやり方をよく質問されました。ご説明すると「ぜひやってみたい」と言われ、コロナ禍で私も時間があったので、サービスで手伝っていました。

そんな時、商工会議所のメールマガジンで中小企業と副業人材をマッチングする「デジタル化応援隊事業」が始まることを目にしました。時間を持て余していたので試しに登録してみると立て続けにいくつかの仕事が決まりました。

相談してくる方は誰もグレースと同じようなデジタルに関する悩みを抱えられていて、解決策をご提案するとすごく喜んで下さる。自分でも能力が活かされているような気がしてやりがいを感じる。すぐに「これだ!」と思いました。
事業継承した身ではありますが、DXによって店の仕事もかなり軽減されていたので、父にDXのコンサルティングを本格的に始めてみたいと相談しました。最初はもちろん反対でしたが、私がZOOMでお客さまにアドバイスしている様子を見て、「向いてるね、いいんじゃないの」と言い始め、次々に仕事が取れていくのを知ると、最後は背中を押してくれました。

おかしな話ですが、事業継承の経験がDXのコンサルティングを生業とするスライベックスの創業のきっかけになりました。
これからはスライベックスでDXコンサルタントとしてデジタル化に悩んでいる方々の助けとなり、経験を積んでいきたい。そして将来、両親が引退した時にはグレースを次なる高みへと導ければと思っています。