株式会社崎戸運送
株式会社崎戸運送(以下、崎戸運送)は、長崎県西海市に本社を構える。従業員数は約40名、保有車両数は38台。創業からもうじき50年、「安心」・「安全」・「確実」をモットーに、主に塩化物製品、機械製品、鉄鋼関係、製缶品、飼料などの輸送業務、一般貨物自動車運送事業を生業にしている。
喫緊の課題が浮上
ヒアリングを重ねていく中で、「excelでの情報共有の煩雑化」が喫緊の課題として浮上する。営業(配車) 担当が配車のためにエクセルを更新している間は 他の担当が入力できない状態になっていて、リソースが滞留していることが明らかになった。まずはこれに対処するため、スライベックスはDXの推進計画を3つのフェーズに分けて提案した。
DX実現に向けて
第1段階:フォルダ管理のクラウド化
既存のネットワークドライブ(NAS)からMicrosoft OneDriveへの移行を支援し、情報共有の円滑化を図る。これにより、ファイルのアクセスと管理の手間を大幅に削減し、喫緊の課題を解決する。
第2段階:データベースの構築とデジタル化
売上利益の向上を目指し、業務負荷の軽減と車両稼働率の向上を図るため、業務プロセスをデジタル化。
第3段階:顧客との連携をシステムで強化
さらなる生産性の向上を目指し、データベースを活用して荷主や傭車先との連携を強化する。
そして、デジタル化へ向けた作業が始まる
第1段階では、使用していたネットワークドライブ(NAS)でのフォルダ管理をMicrosoft OneDriveに移行し、すべての営業所員がエクセルで管理していた情報をリアルタイムで共有できる仕組みを構築。運用のレクチャーも実施し、ファイルの開け閉めの手間や滞留しているリソースを円滑化することを初期の課題解決として実行しました。
―第1段階を経て、何か変わりましたか?
―橋本: 今までは色々なエクセルファイルを使って、同じ情報を何度も入力していたんです。しかも、編集は一人しか出来ないので、かなりの時間を無駄にしていました。一度の入力で最後の請求までいけるのはメリットですね。
入力方法はあまり変わっていないので、メンバーもすぐに使えるようになって、効率も上がってきているように思います。
そして、第2段階へ。選定するシステム基盤は、将来的に外部とのデータ連携によって、荷主への連絡サービスや請求管理のデジタル化といった新たな価値の創造を想定して、クラウドのWebプラットフォームを選定する必要がありました。開発の初期費用、維持費用の面で考慮した結果、非常に優位であったkintoneが採用されました。
システムの開発で難しかったのが、運送業特有の「多重請負構造」という商習慣の存在。運送業においてはそういった「多層化」が常態化していて、依頼された業務が自社の車で運べない場合は付き合いのある他社に依頼する「傭車」という業務が存在し、その業務がかなり頻度で発生する。傭車する際の連絡の優先度、荷主や運ぶ物で業務内容が微妙に異なるため、システムに特有の機能を実装する必要があった。また現場担当者のITリテラシーに合わせて、画面移動を少なくしなければならない。その他の難しい要件も多く、Webサービスではよくある画面設計の制約などもあって、開発のハードルは増すばかりだった。
―現場の方々の反応はどうだったのでしょうか?
―中島社長: 最初は色々とありましたね。私の耳にも入ってくるぐらい堂々と不平不満を言ってる人たちがいて、耳が痛かったですね。だから、「元からこれでやっていたと思ってやってくれ」と言いました。これまでと比較するから、ああでもない、こうでもない、となる。元からうちの会社はこれだったんだと思って一回やってみてくださいよ、と。費用はもったいないことになりますけど、どうしてもダメなところは前のやり方に戻せばいいんだと思っていたので。全然ダメでは問題ですが。
でも、外部との連携という先の展開を考慮すると、自社の人間が使いこなせないと紹介できない。だから上手く使いこなせるのかは気になりました。一方で、そのために自社に関係ない情報を入力してもらっているので、そこまで説明を受けていない実務担当者は「なんでこんなのがいるんだ!」となる。でも、今は仕方がない。これから進んで、良さがわかってくるんじゃないかな、と期待しています。
―鶴野: 今まで使ったことのないツールで慣れていないために、不便だと感じてるのかもしれません。しかし、以前のエクセルへの二重三重の入力作業はなくなっていて、実際の作業量は確実に減っています。慣れと我々のレクチャーを経れば、徐々に良さを感じていただけると信じています。
生き残りをかけ、更なる生産性の向上へ
これらのプロセスを経て、デジタル化による情報共有とシームレスな業務フローを実現し、悩まされていた課題は解決できた。データは1ケ所に入力するだけで済むようになり、入力ミスの原因であった転記作業もなくなり、作業効率は飛躍的に改善された。必要な情報もリアルタイムで共有できるようになったため、報告書や会議資料の準備にかかる時間も大幅に短縮。この結果、営業・管理業務・帳票作成など自社内で完結される業務の工数は約30%削減。管理業務については、帳票の自動作成が可能となったため、部署自体が不要となり、組織構造も変革された。
崎戸運送のDXプロジェクトは第3段階へと進み、データベースの活用によって荷主や傭車との連携を強化し、さらなる生産性の向上を目指している。
―現時点で手応え、効果を感じている点はありますか?
―中島社長: 今までは色々な情報を知るのにタイムラグがありました。会議資料を作るまで売上の集積がわからないとか。それが今回のシステムでは入力さえ終わっていればリアルタイムでわかります。各々の管理者が自分の知りたい情報を絞り込むことも出来る。そういった点は手応えがありました。
コロナ以降に働き方も変わって、会社に来なくても入力作業はどこでも可能となりました。私が出張や外出している時には外からでも見られる。自社のリアルタイムの受注数量なども繋げばどこでも知ることが出来る。その点はやはり大きいですよね。
―今後の課題などはありますか?
―中島社長:やはり外部連携まで何としてでもやりたいと思っています。それを達成すれば、受発注の情報もお客さまの入力作業で完結するので、うちは何もしなくて良くなる。逆にその時間でお客さまに対して何ができるのか、新たなサービスを作っていく必要があります。
2024年問題もあり、運送業は様々な点で厳しい環境になってくるので、いかに変化に柔軟に対応しながら新しいことを続けられるか、だと思っています。だからこういったことも新しい挑戦と思ってやってもらいたい。みんなも一生懸命やってくれています。
2030年は更に悪くなり、おそらく今の30%以上は運べなくなると言われています。そのためには社内の仕事をギュッと簡素化して、配車や新たなサービスなど売上を上げる業務に人を投入して注力できるかが重要になってきます。システムとか機械でやれることはどんどんやってもらった方がいいと思いますし、それをやらないと生き残れないですね。
運送業の社会的地位を上げていきたい
―今後の運送業に対する展望は?
―中島社長: 運送業の社会的地位を上げていきたいですね、大きな課題ですけど。どうしても下に見られがちだな、と感じています。荷主さんとの関係も今は対等ではない。やはりお金を払う方が強い。こういった点は2024年問題を経て、全体の数が減れば、需給のバランスが良くなって、少しは改善されるかもしれません。そのためにもDXで自社を進化させ、生き残っていきたいと思っています。
―プロジェクトを進めていく中でスライベックスにプロフェッショナル、頼もしさを感じた点はありますか?
―中島社長:丁寧さ、そして提案力がある会社だな、と感じています。その提案の中に費用の面もあり、助成金もアドバイスしてくれる。するとこちらのハードルは下がってやりやすかった。いい印象しかないですね。あとは第三者的に弊社の先のお客さまを見てくれていて、お客さま目線で「こういうのがあったらどうですか?」と提案して頂けるのが本当にありがたいです。
当社の事例が他社にも反映されていき、世の中に影響を与えるような会社になってもらいたいな、と期待しています。
―鶴野:初めて中島社長にお会いした時に、「これを業界のスタンダードにして、業界を転換してきたい!」と話されました。そういった発想をされる社長はいらっしゃらないので、衝撃的でワクワクして、それがこのプロジェクトのモチベーションでした。
―中島社長:私もお話してると、「面白いなぁ」、「上手くいくといいなぁ」と思って、いつもワクワクしてるんですよ。だからやはり「ワクワク感」や「楽しさ」が本当に大切なんでしょうね。そこが合致したのが凄く良かったんじゃないかな、と思います。